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TERRA 【第2章】第11話 森の番人、フリード

【第2章】

第11話 森の番人、フリード

アルムたちが慣れない海と天候に悪戦苦闘しているころ、目的地、トドス湾のあるメルク大陸の密林、ジュングラでは、ある生き物が”すみか”を追われ苦しんでいました。そのわけは‥

トッポの住む沼をさかのぼると、河があり、さらにさかのぼるともっと大きな河が現れます。しばらくすると、2つの河はいっしょになって、さらに大きな河となるのです。大陸を分ける大きな河のまわりは、深い森で囲まれていました。

その森の番人、オセロットのフリードは、ぼう然と立ちつくしていました。自分の住んでいた森が無くなっていたからです。むなしく残る切り株だけの野原のまん中で、前足を地面に何度も強くたたきつけました。その勢いで枯れ葉があたりに舞い上がりました。
空をおおいかくしていた木々がなくなり、美しい鳴き声で空を飛び交う鳥たちや、枝から枝へ華麗に飛び移るサルたちも、どこかへ行ってしまいました。ジュングラの森を通り過ぎてゆく、ざわざわという音すら聞こえなくなりました。

フリードは歯を食いしばり、河の向こうをにらみつけました。
「ニンゲンめ、この森までもか!オレは絶対に許さない!」

何日か前から、フリードの守る森には、河向こうから大勢のニンゲンたちがやってきていました。太い腕の付いた大きな機械を何台も引き連れて。フリードは、木々のかげに潜みながらその様子をうかがっていました。

大きな機械は動き回るたびに木々を倒して枝を切り落とし、また別の機械が運んで積み重ねます。機械もニンゲンたちも休むことなく森を動き回り、日が沈み始めると、切り倒された木を積んで大きな乗り物が下流に向かいます。
フリードが乗り物のあとをつけると、河が合流するあたりの空き地には、見たことのない四角くて大きな”すみか”があったのです。
ニンゲンたちは、たくさんの木々をまた別の機械を使って、その中に運び込みました。
こんなことが毎日のように繰り返されると、日差しをさえぎっていた木々は次々と姿を消してゆき、空がむきだしになっていきました。

フリードは、ニンゲンたちに姿を見られないように木から木へと隠れながら移動するうちに、とうとう自分の縄張りだった森の外に追いやられてしまったのでした。

「オレの、オレさまの森が‥」
今や野原と変わり果ててしまった森のまん中で、鋭いキバを食いしばりうなり声を上げようと空を見上げた時、太陽をさえぎり彼に近づいてくるものが見えました。       

***

さえぎるもののない空に輝く太陽のあまりのまぶしさに目を細めていると、ふわふわと目の前に落ちて来るものがありました。真っ赤な羽根でした。よく見ようと近づくと、少し離れた切り株の上に一羽の鳥が舞い降りたのがわかりました。その鳥は色鮮やかな大きな羽を広げ、優雅に羽づくろいをしたり、くちばしで切り株をつついたりして、まるでフリードの存在に気づいていないかのようでした。

フリードはうなりました。
「誰だ、お前は?」
見知らぬ鳥はフリードの方を見もせず、切り株をつつきながら、
「あたい?あたいはアッシーナ、ツメバケイよ。見たことない?このあたりに来るのは久しぶりだけど」
「ツメバケイ!お前がツメバケイか!」
フリードは目を大きく見開いて首を伸ばし、
「オレはまだ食べたことはないが、われらオセロット一族の、まさに魅惑の一品だ!」
言うが速いか、あっという間に飛びかかっていました。
オセロットは狩りの名手。しなやかな体とスピード、鋭い爪で、狙った獲物をはずしたことがありません。ところが前足のツメは切り株に刺さっただけで、アッシーナはもう別の切り株の上にたたずんでいました。フリードは舌打ちをしました。

アッシーナは、フリードのほうを見もせずに首を小きざみに動かしてあたりを見渡しながら、
「あらあら、こんなにさっぱりしちゃって」
ハスキーな声で歌うようにひとり言を言っています。

フリードは、切り株に刺さった爪を力まかせに引き抜きながら吠えました。
「き、きさま!無視しやがって!」
アッシーナはその時初めて気づいたかのようにフリードを見て、大きな目をわざとらしくまばたいて言いました。
「そんなことないわよ~。
あー、こわいこわい」

そんな言葉を無視して、フリードはまたもや跳びかかりました。でも今度もフリードの爪は空を切り、アッシーナは優雅に羽づくろいをしています。
「あたいをつかまえることはできないよ。特に、森がなくなってメソメソ泣いてたような子猫ちゃんには、ね~」
プライドを傷つけられたオセロットの目は、まるで火がついたかのようにぱあっと赤くなりました。怒りに満ちた声でうなりながら、
「ば、馬鹿にしやがって。きさまなんかに何がわかる。この森はずっとオレさまのものだったんだ。あいつらニンゲンたちがくるまではな」
アッシーナはケラケラと高らかに笑って、
「だから?ここはボクの森なんで、出てってくれますか、とでも言ってみる?それともニンゲンたちを襲う?あたいさえつかまえられないのに?」
と、さらにぐるぐるとフリードのま上を回り続けます。
「だ、だまって聞いてりゃ、このおしゃべり鳥め!この森は誰がなんと言おうと、最強のオレさまのものだ!」
アッシーナはわざとらしく驚いてみせました。
「あらあら、困った子ネコちゃんね~ 泣きながら草っぱらをけとばしているオセロットが、最強?」
わざと怒らせるようにからかうと、
「ほっほっほっ、あんたはこの森の持ち主みたいなことを言ってるけど、ほんとはこの森にさえ勝てないんだよ。森は強いよ~ 見ててごらん、あと何年かするとまた元の姿を取り戻すから」
フリードの傷ついた心を逆なでするように笑いました。

「侮辱するのもいい加減にしろ!!」
アッシーナのかん高い笑い声を切り裂いて、うなり声が響いたその時です!

フリードはいくつかの切り株を踏み台のようにしてすばやく移動すると、大きくジャンプしました。狙いすました恐ろしいツメが、アッシーナめがけて一直線に向かって行きました。

あたりに真っ赤な羽根がひらひらと飛び散りました。

ツメバケイは、間一髪のところでかわしてはいたものの、羽の先っぽを鋭い爪がわずかにかすめていたようでした。
アッシーナの横を通りすぎたフリードの体は、空中でくるりと丸まって、音もなくふわりと地面に降り立ちました。
「ちっ、惜しかった。もう少しだったのに‥」
と、くやしまぎれに落ち葉をけりました。

空高く逃げたツメバケイは、頭上で円を描くように飛んでいます。
「びっくりした~ 危ない危ない。今のはちょっとやばかったよ。泣き虫でもさすがにオセロットだね。いい加減からかうのはやめて、そろそろ本題にはいることにするよ。あたいはね、実はあんたに伝えることがあって来たのさ」
そう言いながら、羽を大きく広げて、フリードがいっぺんには飛びかかれないほど離れた切り株の上に降り立ちました。少し肩の力を抜いてため息をついたフリードは、
「オレに伝えること?いったい何のことだ? お前はオセロット一族に食べられる以外に生きている意味すらないはずだ」
アッシーナは何も答えません。その代わりにじっとフリードの目を見つめてきました。

みるみるうちにアッシーナの大きな目が赤く輝き始め、どんどん大きくなっていきました。フリードは、その赤い目を見返すうちにだんだんと頭が痛くなってきました。
「あ、頭が‥痛い。うー、目の奥が焼けつくようだ!」
頭を抱えてうなりながらも、目をそらすことができません。しまいには自分が見ているのが目なのか、太陽なのかさえもわからず、立っていられなくなってしまいました。
赤い輝きは、ついに森をおおうほどに大きくなり、お尻からくずれ落ちるように座りこんだフリードの体を包み込んでしまったのです。

              ***

座りこんだままどのくらい時間が経ったのでしょうか。ほんの少しのようでもあり、何日も経ってしまったようでもありました。
気がつくと輝きの向こうからアッシーナが語りかけてきました。それはまるで頭の中にしみわたるかのようでした。

「聞きなさい、フリード、気高いオセロット」

その声はとても心地よく、あれほど痛かった頭の痛みが、すうっとフリードの体を通り抜けて行きました。

「私は、あんたが生まれるずっと前からこの森を見てる。いろんな生き物が生まれ、食べたり、食べられたり。そして、追いやられたり、ね。そんな自然のサイクルを見つめてきたわ。そのサイクルの中ではあんたもじゅうぶんに戦えるかもしれないわ。でも、最強の生き物、ニンゲンたちは自然のサイクルなんて関係ない。この森だけじゃなく、このテラのすべてが自分たちだけのものだと思ってる。あんたも見たでしょ、あんな大きな機械を自由に操って、テラの形さえ変えようとしてるのよ。そんなおそろしいやつらと、どうやって戦うつもり?」
アッシーナは挑むように力強く語りかけ続けます。
「いくら自分の森だって強がっても、木がなくなったら、もう森の番人とは言えないし、そもそもここで暮らすこともできなくなったのよ。でも、もしあんたがそれをうらんでニンゲンと戦ったら、きっと銃で撃たれて殺されるか、つかまって動物園の狭いオリ暮らしが始まるだけよ。
それともこの先の別の森に移り住むかい? その森もなくなって、あんたはまた次のところへ逃げるしかなくなる。そこもいつかなくなってしまう。かわいそうだけど、あんたの住める森はなくなってしまうのさ、遅かれ早かれね」

フリードは下を向いて歯をくいしばっていました。でもなぜだかアッシーナの言葉に逆らう気持ちはなくなっていました。
「ニンゲンたちはどんな生き物が住んでいようとおかまいなしさ。だってニンゲン同士でさえ、そこに住んでいるだけでは、あとからきた力の強い者に追い出されてしまうんだからね。いいこと?この森がなくなったことで、あんたのやるべきことはもはや自分の森だけを守ることじゃなくなったってことなのよ」
もはやからかうような雰囲気はなくなり、アッシーナの言葉は頭の中に深く入り込んでくるかのようでした。

「優雅なオセロット。あなたの役割を言い渡します」
突然口調が変わったので、フリードはびくっとくびをすくめながら顔を上げました。
「これからトドス湾に、ある生き物たちが着きます。彼らは南の方の島からやってきて、ここが最初の訪問地になります。湾にはあなたがここでいつもいじめていたサルやヌートリアたちも迎えに行くはずです。彼らとともに、あなたは勇者として旅の一行を守る役目を果たすのです」
アッシーナの不思議に威厳のある言葉に、フリードは口の中でツバを飲み込みました。
「この森がなくなったのには重要な意味があるのです、オセロットにとっても、ほかの生き物たちにとっても。ニンゲンたちへの憎しみを捨て、別の力に変えるのです。オセロットのすばやさと力強さは、この小さな森を守るためだけにあるのではなく、このテラにある森を守るためにあるのだと気づきなさい」

小さな鳥からの思いもよらない命令にとまどいながらも、フリードは逆らうことなく自然に受け止めている自分に驚いていました。そんな心の動きを察したのか、アッシーナはフリードのすぐ横に、すーっと音もなく降りてきました。
「これからトドス湾で出会う生き物たちは、あなたと同じように行き場がなくなりかけていたり、仲間がいなくなりかけている種族たちです。こんな小さな森にしがみついている時間はありません」
アッシーナは、静かに、しかも威厳のある力強い声で命令しました。
「今すぐトドス湾に向かい、このテラを変えるかもしれない大事な仲間たちを出迎えるのです!」
頭の中にその声が響きわたったとたん、フリードは、なぜかニンゲンたちへの怒りや憎しみが何か別の物に変わったように感じたのでした。

ついこの間まで森だった野原に散りばめられた枯れ葉が、カサカサと細かな音をたてて風に転がり、足にからまっては離れてゆきます。遠くの森で木々がゆれる音もかすかに聞き取れます。あたりに夕暮れが近づいているようでした。

黙ったままだったフリードが、やっと口を開きました。
「その生き物は、どんなやつらだ」
「それは会ってのお楽しみ。あとほんの数日のことさ」
謎めいた微笑みを残して、アッシーナは突然フリードの頭に飛び乗り、
「仲間たちをちゃんと守れたら、その時はあんたに食べられてもいいよ」
と高らかに笑いながら、空高く舞い上がりました。

あとを追ってオセロットが見上げた空には、うすい雲がただよっているだけで、もうツメバケイの姿はありませんでした。

第11話道しるべ

人間によっても自然が破壊されている。
その一つが、熱帯雨林の森林破壊だ。
主な原因は、紙や割り箸、木材として加工するための伐採や
やき畑農業、大規模農場(プランテーション)の開拓だ。

森林の減少は、
動物たちのすみかばかりか、植物の生息域すら奪ってしまうので、
環境の変化に対応できなくなった動植物はいなくなってしまうのだ。

森林は木材の大切な供給源でもあるし
生きものたちにとっては大切な生命線でもある。
だから、むやみやたらに伐採するのではなく、
伐採後の状況も考え
計画的に森林を利用できるようにしなくてはいけない。
自然を守るのも壊すのも人間次第だから。

★調べてみよう
「森林伐採」、「やき畑農業」、「プランテーション」

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